競争激化が続く製紙業界では、「効率化」と「サステナビリティ」は単なる流行語ではなく、生き残りを左右する経営課題である。これまで主に紙力上昇剤として認識されてきた乾燥強度増強剤(DSA)が、実は両テーマを同時に解決する強力な切り札であることが明らかになっている。戦略的な活用によって操業自由度が高まり、コスト削減と環境負荷の削減を同時に達成できるため、先見性ある製紙所の必須アイテムとなっている。

DSA導入による最も直接的なメリットは、原材料コストの最適化だ。同剤を用いることで、リサイクルパルプをはじめとした低コストファイバーや高充てん材配合を、最終製品の強度基準を満たしたまま安心して採用できるため、原料費そのものを大幅に抑制できる。また、DSAは繊維間結合を強化し、精練(リファイニング)の負荷を軽減。精練工程は工場の中で最も電力を消費する工程の一つであるため、省エネ効果も抜群だ。

さらにDSAは、抄紙機の「走り」とスループット向上にも貢献する。繊維ネットワークを強化することで排水・脱水特性が改善され、機械速度の引き上げが可能になる。初期脱水が良くなることで乾燥器への負載も減少し、追加の省エネと生産性向上が同時に狙える。結果、同等の設備・時間でより多くの生産量を確保できるため、投資回収期間も短縮される。

環境面でのインパクトも無視できない。DSAを活用すれば、軽量でありながら高強度の紙生産が可能になり、世界中で進む「軽量化による輸送時CO₂削減」流れに合致する。また、リサイクルファイバーの高配合も実現し、廃棄物の埋立処分を減らし、バージンパルプの節約にも貢献。さらに、バイオベースまたは生分解性のDSAを選択することで、グリーン化を求める消費者や規制当局への対応力も向上する。

つまりDSAは「強度を高める添加剤」という枠を超え、効率性とサステナビリティを両立させる戦略ツールへ進化している。原材料高騰、環境規制強化、高性能+エコペーパーへの市場需要という複雑な課題を抱える製紙所にとって、DSAは単なるコスト要因ではなく、正のROI(投資利益率)を生むソリューションである。化学薬品ひとつへの視点を変えるだけで、強靱で責任ある次世代の製紙運営を築けるのだ。