【東京発】 CAS番号 74-88-4のジオドメタン(別称:メチルヨウ化物)は、かつて土壌燻蒸剤として注目されたが、わずか数年で撤退に追い込まれた。なぜここまで短命だったのか、その背景を日本の規制トレンドと併せて紐解く。

2007年、アメリカ環境保護庁(EPA)はジオドメタンの農薬登録を承認。オゾン層破壊物質メチルブロマイドの代替候補として、害虫・線虫・病原菌・雑草種子を一挙に防除する役割を期待された。しかし承認直後から、環境団体や医療界の声は一様に「人体・環境への影響は深刻」と警鐘を鳴らし続けた。

  • 急性毒性:吸入・経口・皮膚吸収の全経路で中枢神経・肺・皮膚障害を引き起こす実験データが相次ぐ。
  • 発がん性:動物実験結果から「人への疑いあり」とされ、がんリスクも指摘。
  • 揮散性:高い蒸気圧により、作業者や周辺住民、とりわけ子どもや胎児への二次曝露リスクは避けられない。

こうした声は訴訟と署名運動へと発展。唯一の登録者であるアリストライフサイエンスは2012年末までに「自主撤回」を表明し、EPAも全登録を抹消。結果として、米国での農業利用は事実上終焉を迎えた。

ただし、ジオドメタンは研究室の合成試薬や一部工業プロセスにおいて、なお不可欠な存在。業界全体はリスクアセスメントの最新知見に基づき、より安全で持続可能な代替技術の開発を急いでいる。ジオドメタンという一本の化学物質が浮き彫りにした「生産性」と「環境・健康」の天秤は、今後のグリーンケミストリー実現に向けた重要なレガシーとして残る。