有機合成の現場で欠かせない溶媒として知られるジメチルスルホキシド(DMSO)。その分子構造は、高い電気陰性度を持つスルホキシド基に2つのメチル基が結合した、極性に富んだアプロトン性溶媒である。この性質のため、無機塩から非極性有機化合物に至るまで幅広い種類の物質を効率よく溶解でき、プロセス開発の自由度を大幅に高める。

化学反応の速度論的観点では、DMSOはカチオンを強く溶媒化する一方、アニオンを比較的裸のまま活性に保つ。この作用により、求核置換反応では求核剤の反応性が飛躍的に向上し、反応時間の短縮と高収率化を両立できる。特にDMSOが化学反応を加速させる鍵は、反応中間体のエネルギー障壁を下げる点にある。

DMSOは溶媒であると同時に、化学種として直接反応に関与することも多い。代表的な例がSwern酸化やCorey-Kim酸化であり、アルコールを選択的にアルデヒドやケトンへと転換する。このようにDMSO医薬中間体としての活用により、複雑な医薬活性成分(API)合成の効率化が可能となる。

さらに、生体膜への優れた透過性と低毒性を活かし、製剤開発では経皮吸収促進剤やリポソーム製剤の溶媒としても用いられる。細胞凍結保存におけるクライオプロテクタント、培養細胞のディメチルスルホキシド凍結ストックなど、バイオサイエンスでもDMSOは基盤的な役割を果たす。

電子産業ではフォトレジストの剥離剤、高分子材料の加工助剤としての需要も高く、DMSOの産業用途は多岐にわたる。今後もグリーンムーブメントや新規API開発の加速を背景に、DMSOの可能性はさらに広がり続ける。