東京 ― かつてペニシリンの発見は細菌感染症という死神から人類を救う革命だった。だがその“救世主”が広く用いられるにつれ、皮肉にも今世紀最大級の公衛生上の脅威「抗菌薬耐性(AMR)」の火をつけた。

細菌は驚異的な適応力を持ち、薬剤への長期暴露を通じて生存メカニズムを獲得し、最終的に薬剤を無力化する。ペニシリン系薬に対する耐性の典型は、βラクタマーゼという分解酵素の産生だ。こうした耐性株は時間とともに増殖し、治療が難しくなる感染症を引き起こす。そして人医療・獣医療双方で抗生物質が「安易に処方される」ことや、投与期間を守らない、あるいは家畜の成長促進目的での使用が、この現実を加速させている。

ペニシリンを含む抗菌薬の効力を守るには、多角的アプローチが欠かせない。医療従事者の適正な処方、患者の治療期間完全遵守、新規抗生物質・代替療法の開発、そして一般向けの正しい知識普及――これらを組み合わせることで、現代を脅かす耐性菌問題に立ち向かい、未来世代にも感染症の治療選択肢を残すことができる。