CAS番号79-42-5、分子式C₃H₆O₂S。チオール基（-SH）とカルボキシル基（-COOH）を同一分子内に有する2-メルカプトプロピオン酸（別名チオ乳酸）は、その二重官能基ゆえに幅広い用途を持つ有機化合物である。

主な合成ルートは大きく２系統に整理できる。第一はアクリル酸に硫化水素を付加させる直接法。反応条件を厳密に制御することで、工程の簡素化と高収率を両立する。第二は硫化物S(SCHMeCO₂H)₂の電解還元、あるいはピルビン酸誘導体のナトリウムアマルガム還元法。いずれも化学中間体メーカーが食品・医薬用途に求められる高純度仕様に合わせてプロセスを最適化している。

室温付近では無色～微黄色オイル状液。特有の硫化物臭は希薄濃度では肉の焼ける香りやコクを付与するため、食品香料としても有用に転じる。融点10–14 °C、16 mmHgでの沸点は約102 °Cと揮発性に富む。

反応性は二官能基に由来。チオール基の求核性により酸化、ジスルフィド結合形成、金属イオン配位が可能。カルボキシル基は酸性により脱プロトンやエステル化・アミド化を受けやすく、ラジカル重合の連鎖移動剤としても登録例がある。

農薬原料や除草剤合成のキープレカーサー、高分子分野では重合抑制・耐熱性向上のスタビライザー・抗酸化剤として採用される。さらに、蛋白質中のジスルフィド結合を切断する能力を活かし、脱毛剤やパーマ液といったパーソナルケア製剤にも数多く配合される化学中間体だ。

ただし、経口摂取で有毒であり、皮膚・眼に重度の刺激を与える危険物質に指定。取扱いには防護手袋・防塵メガネと共に換気の確保が欠かせない。

今後も化学中間体サプライヤーによる合成プロセスの改良と応用研究が進めば、食品技術から素材科学、化粧品開発まで、新たなイノベーションの起点となることは確実である。