激しいトレーニング後に誰もが経験する「運動性筋損傷(EIMD)」。この一時的な筋力低下と遅発性筋肉痛(DOMS)をいかにして早期に解消できるかは、アスリートから週末ランナーまで共通の関心事だ。その回復プロセスを支える栄養戦略として注目されているのが、ロイシン・イソロイシン・バリンからなる分岐鎖アミノ酸(BCAA)である。

激しい収縮によって生じる微小断裂は、まずマクロファージなどの免疫細胞による炎症反応を引き起こす。この炎症は、損傷組織の除去と修復開始のスイッチでもある。BCAA、とりわけロイシンは、この炎症シグナルを巧妙に調整。研究によると、マクロファージを修復に適したM1/M2型へと誘導し、筋衛星細胞(筋ステム細胞)の増殖・分化を促すことで、筋再生の土台を整える。

分子レベルでは、mTOR経路の活性化が確認されている。mTORのスイッチが入ることでタンパク質合成が加速し、筋繊維の再構築が効率的に進む。また、BCAAは免疫細胞内の代謝経路にも作用し、炎症の“かぶとを取る”ことで二次的なダメージを最小限に抑える。サプリメントでこれら必須アミノ酸を直接的かつ迅速に摂取できるため、リカバリー・ウィンドウを最大限に活用できる。

実際には、血中クレアチンキナーゼ(CK)値の上昇抑えやDOMSの軽減といった効果が複数の臨床試験で報告されている。このことは、BCAA摂取によりトレーニングや日常にいち早く復帰できることを示す。高蛋白食でもBCAAは摂れるが、目的別に濃縮されたサプリメントはより即効性があると言える。

かくして、BCAAは炎症調整・シグナル伝達・タンパク質合成という3つの階層で筋修復を加速する、科学的根拠に基づくリカバリーサポートツールとしての地位を確立した。パフォーマンス向上だけでなく、健康的な運動習慣を維持するためにも、そのメカニズムを知ることが第一歩だ。