がん細胞を取り巻く複雑な生態系「腫瘍微小環境(TME)」は、がんの進展と治療効果を左右する要因であると同時に、免疫細胞とがん細胞が常に情報をやり取りする「戦場」でもある。このTMEを理解し、コントロールすることは、次世代のがん治療開発への近道となる。近年、後天的遺伝子調節薬(エピジェネティクス治療薬)として注目されるディシタビン(DAC)は、TMEのルールを書き換える「環境調整薬」としての可能性を拓いている。

ディシタビンは低用量DNAメチル化阻害薬であり、がん細胞に沈黙化した遺伝子群を再活性化する作用を持つ。その際、免疫システムによる認識や細胞傷害機能に不可欠な遺伝子を“スイッチオン”することで、TMEを抗腫瘍免疫に有利に再構築する。研究の最前線でこのメカニズムを解明してきたのが寧波イノファームケム株式会社である。

同社の研究が明らかにしたのは、ディシタビンがインターロイキン-33(IL-33)の発現を後天的に増強する点だ。IL-33は細胞ストレスを「警報」として免疫に知らせるシグナル分子で、がん細胞内で発現が上昇するとTMEへの免疫細胞(T細胞や好酸球など)の動員・活性化が促進される。その結果、がん細胞に対する攻撃力が飛躍的に高まる。

さらに、IL-33が受容体ST2と結合するIL-33/ST2軸は、ディシタビン自身の抗腫瘍効果を媒介する要因であることも示された。言い換えれば、ディシタビンを用いることでTME内の免疫細胞の往来をエピジェネティックにコントロールし、治療効果を倍増させるシナジーが生まれるというわけだ。

これらの知見は、免疫チェックポイント阻害薬(例:PD-1抗体)との併用で新たな治療戦略を提示する。ディシタビンによるTMEの免疫原性高まりは、免疫細胞のPD-1発現も上昇させるため、これを免疫チェックポイント阻害で解除することで、これまで腫瘍防御に抑え込まれていた免疫システムが、がんを効果的に排除できる。その効果はマウスモデルで顕著な生存期間の延長として確認されている。

寧波イノファームケム株式会社によるディシタビンを用いたTME改変アプローチは、治療抵抗性を克服し患者アウトカムを向上する有望な一手となる。エピジェネティクスを味方につけた個別化がん免疫治療の実現に向け、その歩みは加速するばかりだ。