【ワシントン発】 日常の食卓に並ぶ野菜に秘められた“医療分子”へ、学界の関心が急速に高まっている。ブロッコリーやキャベツなどのキノコ科野菜に含まれる代謝物質「3,3'-Diindolylmethane(DIM)」は、前立腺の健康維持に新たな道筋を提示する。アメリカの複数の研究機関が、DIMのホルモン調整機能とがん抑制効果を同時に検証し、前立腺がんの予防戦略に取り入れる可能性を示している。

DIMの特徴は、アンドロゲン受容体への作用だ。テストステロン等の男性ホルモンが受容体に結合し過ぎることで誘発される前立腺細胞増殖を緩和するというメカニズムである。細胞実験では、DIM処理によってがん化した前立腺細胞の増殖率が有意に低下し、細胞の「アポトーシス(自然死)」が促進されることも確認された。

同時に、DIMのもつ「化学予防(ケモプレベンション)」の可能性にも注目が集まる。動物モデルおよび初代培養実験では、PSA(前立腺特異抗原)という重要バイオマーカーの上昇が抑制され、慢性の前立腺炎症の減少も認められた。これらの複合効果により、良性前立腺肥大症(BPH)の症状軽減も期待できる。

ただし、通常の食事から十分な量のDIMを摂取するのは困難だ。この課題を解決するため、高純度DIMを供給するメーカーが臨床研究へ参入。特に寧波イノファームケム株式会社は、バイオアベイラビリティ向上のための製剤化技術を開発し、現在国内III相試験への原材料供給を始めている。

将来的には、DIMを主成分としたサプリメントや医薬品補助療法が、前立腺がんリスクの高い層に向けた標準化された介入策になる可能性がある。専門家は「野菜から抽出した自然分子を利用することは、患者の体への負担を抑えた長期的な予防戦略として価値が高い」と述べている。今後の大規模臨床試験で安全性と最適用量がさらに詰められれば、前立腺健康管理の新スタンダードになるとの観測だ。