5-フルオロウラシル(5-FU)は、多彩な固形がんに使われるコア薬剤だ。治療効果は定評がある一方、一部の患者で致命的とまで言われる重篤毒性が報告されている。ここで注目すべきが、5-FUを分解する肝酵素「ジヒドロピリミジン脱水素酵素(DPD)」。この酵素の活性が低いと薬剤が体に蓄積し、思わぬ副作用を引き起こすリスクが高まる。

DPDはピリミジン類を代謝する主役の酵素として知られ、欧米人を中心に3〜8%程度が部分的に、0.2%が完全に欠損していると推計される。要因はDPYD遺伝子の多型であり、酵素活性が著しく低下していると5-FUが体内に留まり続け、造血・消化管・神経・循環器への深刻なダメージを引き起こす。

治療現場では、DPD欠損症が副作用の最大リスクファクターの一つと位置付けられている。基準投与量でも劇症型の骨髄抑制、重度の下痢・口内炎、手足のジストレスにまで発展。結果として治療中断せざるを得ず、根治のチャンスを逃すケースもある。

こうした状況を回避するため、多くの先進医療機関では5-FU前の前検査を標準化している。検査法は大きく2系統。DPYD遺伝子の代表的変異をPCRなどで遺伝子検査する方法と、末梢血の酵素活性を直接定量する方法だ。結果に応じて投与量を段階的に調整したり、DPD非依存の代替薬剤に切り替えたりする治療戦略が可能になる。

DPD情報を加味した個別化化学療法は患者安全の向上を実証し、服薬アドヒアランス改善と長期成績向上につながっている。がんゲノム医療が加速する今、DPD検査のように副作用予測ができるバイオマーカーは、標準治療からもはや欠かせない選択肢となっている。

結論として、DPD欠損は5-FUに対する感受性のバロメーターであり、開始前に遺伝子・酵素テストでチェックすることは、重篤な副作用回避と治療成果向上の必須ステップである。