食品保存に加え注目を集めるナタマイシンは、医薬分野でも幅広い活用が進んでいる。ポリエン系マクロライドとして高い抗真菌活性を示すことから、複数の真菌症治療に新たな薬効をもたらしている。とりわけ眼科領域では、真菌性角膜炎に対する唯一の承認抗真菌点眼薬として、失明リスクのある重症例への対応が可能となっている。

ナタマイシンを配合した点眼液・懸濁液は、感染部位に直接作用する局所製剤として設計されている。真菌細胞膜ステロール主要成分エルゴステロールに特異的に結合し、膜の構造破綻を引き起こすことで菌の増殖を阻害する。既存ポリエン剤と比較しても眼組織への刺激性が低く、全身吸収量が極めて少ないため、敏感な眼表面への投与が継続しやすいという利点がある。フザリウム属、アスペルギルス属、カンジダ属など一般的な病原真菌に対して高い選択毒性を発揮し、治療成功率を高めている。

さらに、皮膚および粘膜の浅在性真菌感染症に対する外用療法としても治療効果が実証されている。直接的な殺真菌作用が得られる一方、皮膚刺激や副作用が少ないため、医療現場で選択されやすい。製剤開発を担う企業・薬局にとって、高純度で品質が安定したナタマイシン原料の確保は最終製剤の安全性と有効性を左右する重要課題だ。今後の臨床研究の進展により、難治性真菌症に対する新たな適応拡大も期待される。