シトラル（CAS登録番号 5392-40-5）は、非環式モノテルペンアルデヒドとして知られる魅惑的な香気化合物だ。かつては合成品扱いされがちだったが、レモングラスなど多くの植物に高濃度で含まれることから、天然抽出と化学合成の両ルートで供給されている。その香りの源流と本質を物性と合わせて整理すると、アプリケーションの幅がさらに広がる。

代表的な天然供給源はシンボポゴン属（レモングラスの学名）の精油であり、アジア・オセアニアで広く蒸留される。ほかにもレモンマートル（学名：Backhousia citriodora）、レモンバーベナ、コウスイボウフウ（リツセア・キュベバ）などが知られているが、特にレモンマートルは精油中にシトラルを90 %以上含むことから「プレミアム天然源」と称される。これら植物は香り・フレーバー用途だけでなく、伝統医療やアロマセラピーにおいても活用されている。

構造面では分子式C₁₀H₁₆O、分子量152.23 g/molで、幾何異性体であるゲラニアル（シトラルA・トランス体）とネラル（シトラルB・シス体）の2種を含む。アルデヒド基に隣接する二重結合の配置が異なり、両者ともレモンの香気を呈するが、ゲラニアルは鋭く、ネラルは甘みを帯びた印象。植物種や蒸留条件によって異性体比率が変化し、最終香りバランスに影響するため、原料選定の際の重要なチェック項目となる。

物性としては淡黄色液体、沸点は約229 ℃と高く、引火点は約91 ℃。不飽和結合とアルデヒド基をもつため、酸化・還元・異性化など種々の化学変化を受けやすく、保存や合成プロセスではこの点を考慮する必要がある。シトラルの調達・使用を検討する際は、これら特性を踏まえた取扱が品質維持につながる。