天然由来の抗真菌剤ナタマイシン（CAS 7681-93-8）は、合成保存料や他のポリエン系薬剤と比較して、もっとも消費者目線と科学的視点を両立した選択肢といえる。その根拠は「天然由来」「標的特異性」「耐性リスクの極小化」という三点にある。

食品分野では、ソルビン酸塩やプロピオン酸塩などの合成保存料と比べ、ナタマイシンは「ナチュラルラベル」を実現できる点が大きな差別化要因。また低濃度での静菌作用とエルゴステロールへの選択的結合により、製造に必須の乳酸菌など有用細菌を傷つけない。そのため、チーズやハムなど発酵食品の風味維持とカビ抑制を同時に叶える唯一の手段として支持される。

創薬・医療の現場でも、同じポリエン系のジフルカン系やアムホテリシンB、ニスタチンが強力な殺菌力を持つ一方で、局所刺激や毒性懸念がつきまとう。これに対してナタマイシンは、眼軟膏や点眼薬など粘膜への使用で安全性が実証され、副作用リスクが低い。さらに真菌細胞膜の基本構成分であるエルゴステロールに作用するため、遺伝的な獲得耐性が極めて生じにくく、長期間安定した効果を維持できる。食品の食品安全性向上と医療の治療選択肢拡大の両面で、ナタマイシンは“耐性を作らない最後の砦”とも呼ばれる存在感を増している。