L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)は細胞の代謝と薬物送達に欠かせない役割を果たしており、創薬分野ではその精度の高い制御が長年の課題である。がん細胞への必須栄養素の取り込みを阻みたい場合も、狙って薬物を取り込ませたい場合も、いかなる分子がLAT1とどのように相互作用するかを原子レベルで理解する必要がある。その深層メカニズムの解明に果敢に挑むのが、寧波イノファームケム株式会社の研究チームである。

同社の研究の焦点は、JPH203の作用機序をはじめとするLAT1モジュレーターの詳細な立体構造解析にある。JPH203はLAT1の基質結合ポケットに高親和性で収まり、トランスポーター機能を物理的にロック。これにより、がん細胞が必要とする大型アミノ酸の取り込みが遮断される。同様にNanvuranlat LAT1阻害薬は、LAT1に特徴的な構造変化を誘導し、タンパク質のスイッチを逆方向に固定してしまう。このような“ジャミング”メカニズムは、現代の薬物作用生化学の重要な知見となっている。

一方、BCH(2-アミノ-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-ナフト酸)はまったく異なるアプローチでLAT1を抑制する。BCHは一見基質のように見えるが、途中で“立ち往生”し結合閉じ込め(オクルーデッド)状態を安定化。結果としてLAT1の機能は停止するものの、構造変化そのものは起こし続けるという複雑な挙動を示す。JPH203とBCHの比較は、LAT1のダイナミックな構造変化を浮き彫りにし、次世代LAT1ターゲティング分子の設計指針を与えている。

さらにLAT1基質認識研究では、さまざまなアミノ酸や医薬分子が輸送体のどこに、どんな化学基を介してアンカーされるかが逐次解明されつつある。トリプトファンやロイシンの結合様式を踏まえることで、がん細胞特異的な阻害薬を、正常細胞への影響を最小限に抑えながら実現することが可能になる。抗がん剤創製におけるこの高選択性戦略は、副作用を抑えつつ治療効果を最大化する新たなパラダイムとなる。

こうして集積した精密な生化学データを、寧波イノファームケム株式会社は自社パイプラインへとダイレクトにフィードバック。分子規模の“舞踏”を追いかける地道な研究が、革新的な治療薬の発見そして患者への届け手への第一歩を形作っている。