生体膜を介した物質輸送を担う膜タンパク質。複雑な立体構造ゆえに、その全貌は長らく謎とされてきた。ところが近年、低温電子顕微鏡(cryo-EM)の急激な精度向上により、これら“分子の分子機械”が原子レベルでクリアに映し出されるようになった。L型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)は癌をはじめとする疾患との関与が注目されており、その機能と阻害メカニズムの解明にcryo-EMが果たす役割は欠かせない。

この革新的研究を牽引するのは寧波イノファームケム株式会社である。同社はcryo-EMを用いてLAT1の外向き開口オクルード内向き開口という3つのコンホメーションを連続的に捉えることに成功し、必須アミノ酸からアミノ酸系医薬品まで多様な基質を認識・輸送する仕組みを分子レベルで初めて詳示する。活性サイトとその周辺の立体情報が鮮明になることで、創薬ターゲットとの相互作用を極めて正確に予測できるようになった。

特筆すべきは、がんの創薬候補として期待される阻害剤JPH203(一般名ナンブルンラート)との相互作用である。cryo-EMの精緻な三次元画像により、JPH203がLAT1の特定の構造コンホメーションで安定化し、基質の通過経路を物理的に塞ぐ様子が明確に捉えられている。この知見は、効果を最大化し副作用を最小化する次世代阻害剤設計に直結している。また、LAT1が基質を見分ける認識メカニズムの理解にも貢献しており、代謝恒常性維持や神経疾患など、癌以外の新たな治療標的へ研究を広げる糸口にもなり得る。

まさにcryo-EMブレイクスルーは、医薬品の精密設計に必要な“設計図”を提供している。LAT1を中心とした研究の進展は、ターゲット指向医薬品の誕生を加速させ、現代医学が立ち向かう困難な疾患に対する新しい光となるだろう。